『てにをは辞典』を買いました

 セカイを変革し得る一握りのド天才を除いて、おそらく、ある程度の長さの文章を書いたことのある人はみな、自分の表現の乏しさというか、だんだん類型が見えてきて、抽斗の少なさやそれぞれの容量の小ささに頭抱えたことがあると思います。なるたけバリエーションを豊かにしようと、シソーラスと首っ引きで一文一文ひり出すものの、ふと「ああなんかコレ、もう使ったような気がすンなァ」とキーになるワードで全文検索かけると案の定似たような文が引っかかって、それが作風やら芸風やら、とにかく何かポジティブな特色として受け止められればいいんですけれど、「お前の書く女の子いつも“困ったような笑顔を浮かべ”てんな」なァんて言われた日には阿鼻叫喚、枕におでこをがんがんぶつけるよりないです。
 それで、どがんしたらめくるめく多彩な表現力を身につけられるかって、どうせ王道はなく、不断の読んだり書いたりしかないんでしょうけれど(村上御大は“もって生まれたもので決ま”ると喝破しておられましたが*1それはプロの世界の話でしょう)、やっぱりできるズルがあるならしたいですから、カンニングペーパーならぬカンニングディクショナリーを買ってきました。以下の『てにをは辞典』という本です。

  小内 一 編 『てにをは辞典』 三省堂

 二つ以上の単語のあいだの自然な連結を、コロケーション(結合語)というそうです。例えば『百合』なら、「百合の花」、「百合が咲く」、「百合の匂い」、「百合に萌える」、「百合を読む」、「百合を書く」、「百合のオタク」等々繋がります(?)が、こうした結合語がひたすらに列挙された辞典です。それ以外はありません。単語の意味は一切載っていないので、国語辞典との併用が必要です。
 試しに、『身勝手』を引いてみます。

みがって【身勝手】▲が 過ぎる。▲を とがめる。嘆く。ののしる。許さない。▲な 祈り。夫。男。女。考え。施策。主観。主張。話。犯行。人。振る舞い。要求。欲望。理屈。離合集散。リストラ。論法。自己本位の態度。評価のしかた。夢を押しつける。本末転倒の〜対応。▲は 許されない。▲に 期待する。振る舞う。▲にも ほどがある。▼ あまりに。

 接着剤になる助詞ごとに、二百五十名以上の作家の文庫本や雑誌・新聞などから収集したという結合語がずらずらと、あるいはちょっと狂気を感じるくらいに並べ立てられていて、読み物としても楽しめそうです──しかし、「身勝手な祈り」って、イイですね……祈りなんて、身勝手で構わないじゃないですか、祈りなんだから。それを敢えて「身勝手なんだ」と自覚しつつ祈るのって、なんだかすごく、イイですね……。
 まだ「使える」かどうかは判りませんが、少なくともぱらぱら読んでるだけで面白いので、良い買い物をしました。おすすめです。